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【英国一家、日本を食べる】日本食と非伝統的フランス料理の比較

前回の更新で、日本食と伝統的フランス料理を比較しているくだりを紹介した。

【英国一家、日本を食べる】日本食と伝統的フランス料理の比較 - はせろぐ

 

日本食は、『素材が本来持っている味を引き出す』引き算の料理であり、一方で伝統的フランス料理は、加えたり重ねたりして『素材を変える』、自分たちの表現したい味にする足し算の料理であると対比されている。

 

本書の中では非伝統的フランス料理ともいえる(フランス料理と言っていいかも分からないが)モラキュラー・キュイジーヌと日本食との比較も成されている。

著者は壬生*1に行った時のエピソードで、こうした懐石とモラキュラー・キュイジーヌは全然似ても似つかないものと表現していたりする。

 

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ロンドンやパリ、あるいはニューヨークの、流行りの店のシェフが、自分の料理は「季節感があって、新鮮で、風土を生かしていて、シンプルだ」などと言うのを、どれほど聞いたことか。何かというと、泡にしてみたり、ゼラチンを使ったり、真空調理だったり、ピューレにしたり、タワー上に積上げてみたり、リング型に詰め込んでみたり、ソースに至っては、ある批評家の印象深い言葉を借りれば、「ピンヒールを履いた人が、ガチョウのクソを踏んで滑っているみたい」*2に皿に塗りつけている。

(略)

壬生の盛りつけは上品だが、技巧や細やかな手間はまったく施されていない。ただ、料理があるべきところに「到着している」だけのように見える。

 

盛り付けについては、このように評している。調理についてはマンダリンに入っているタパス モラキュラーバーにいったエピソードを紹介している。

 

日系アメリカ人のシェフ、ジェフ・ラムジーが提供してくれるのは、料理でもあり手品でもある。オイルをドライアイスに注いで作るオリーブオイルのグラニタ、分解された味噌汁、果汁を塩化カルシウム溶液に垂らして軟らかな小球体を作るというエル・ブジの最高傑作の手法を用いた、ニンジンのキャビアなどが味わえる。まさに、壬生とは対極にある料理だーもとの素材は完全に姿を変えられ、それが何かわからなくなっている。この手の料理は素材を「いじりすぎ」だと退ける人もいて、ラムジースタイルの料理はある種の堕落だとみなしたがる向きもあるが、個人的には、僕はどちらの料理法も大きな可能性があると思うし、何といっても、いわゆるモラキュラー・キュイジーヌの創意と演出を目の当たりにすれば、どうしてもわくわくしてしまう。この料理は、少なくとも「シンプル」とか「純粋」という形容は当てはまらない。

 

このように、基本的にはモラキュラー・キュイジーヌと伝統的な日本料理は、似ても似つかないもののように評している。伝統的フランス料理よりも一層を手を加えまくっているモラキュラー・キュイジーヌが、『素材そのものの味を引き出す』日本料理と似ても似つかないと評するのは、納得感がある。

 

一方で、菊乃井での食事のくだりでは、類似点をあげている。

 

前の晩に楽しんだ食事では、あの革新的で奇をてらった「モラキュラー・キュイジーヌ」にずいぶん近いと思える料理がいくつかあったジョエル・ロブションなどフランスのシェフが先駆けとなった欧米のマルチコース・スタイルの食事は懐石の影響を受けていることや、モラキュラー・キュイジーヌのシェフたちがそれをさらに極端なところまで推し進めたことも知っているけど、はたして村上氏は何か類似点があると考えているのであろうかと、僕は思った。

 

村上氏は、このように応える。

 

「フェラン・アドリアはいい友だちですし、もちろん、ここへ来てくれたこともあります。彼は天才ですよ。でも、僕の考えでは、食べ物はおいしいか、おいしくないか、おもしろいか、おもしろくないかのどっちかです。他の人が僕の料理を何料理と呼ぼうが、お客さんに喜んでいただくためならできることは何でもするというのが僕の哲学ですし、アドリアもおんなじ考えやと思います。彼のお客さんが液体窒素を使うと喜ばはるというんやったら、僕も異存はありません。僕が逆立ちした方がええんやったら、そうします。もっとも、僕は逆立ちできませんがね。」

 

なんとも歯切れが悪く解釈しにくい返答、似てるのか、似てないのか(笑)

いずれにせよ、本書の中では伝統的な日本料理が現代のモラキュラー・キュイジーヌや伝統的フランス料理に影響を与えていることは、繰り返し言及されている。

少なくとも引き算の料理のようには、到底思えないモラキュラー・キュイジーヌ、一体、どんな点が日本料理から影響されているのか、類似点があるのかは、実地の上、確かめたくなってきた。多分、食べてみてガッカリするだろう公算が高いのに、高い飯代を払うのは、とても酔狂に思えるが。ちなみに、ピエール・ガニェール*3のランチは、あまり口には合わなかった。

 

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なお、分子ガストロノミーやモラキュラー・キュイジーヌについては、マンダリンに入っているタパス モラキュラーバーに行かれた、こちらの記事が面白かった。やはり、勇気を出してタパス モラキュラーバーだろうか。

分子ガストロノミーに人類の可能性を感じる話 | パパは魔法使い

 

*1:会員制で普通の人はまず入れない。著者は服部氏に連れて行ってもらった模様

*2:かなりこの表現には笑った

*3:http://www.montaignecafe-movie.jp/mg.html