はせろぐ

コンサルタントの余暇を綴るログ

【与太話】伝統的産業とCVCの話

以前の更新で、醤油かめびし屋を紹介した。

hasebot.hatenablog.com

 

「むしろ麹製法」という伝統的な製法を強みとしていたが、経営は随分まずい状態だったようだ。そんなかめびし屋を若き現社長が継いでからターンアラウンドしたという美談である。 

伝統産業において、イケてない経営者から、若くて商才もあるイケてる経営者に代替わりすることでターンアラウンドを果たした例は実は多くあるんじゃないかって思う*1。潜在的には、そうした経営者の切り替えによって息を吹き返す事業も伝統的産業*2の中には数多くあるように思う。何しろ、経営方法の近代化がダントツで遅れていそうな企業が実に多そうだから。いわゆる、職人の経験と勘というやつだ。

 

失われる技術がもったいない

消費者に求められない事業は、健全な競争の末に淘汰されることは、ある種しょうがないことだ。変に補助金を入れて延命する方が不自然だとも思う。

一方で、単に経営管理がまずくて潰れてしまう会社、そこに稀有な技術が埋まっていたら、それはかなり勿体ない。適切にマーケティングしていたら、製造工程に関して適切にPDCAを回してコストを削っていたら、適切に事業承継されていたら・・・こういうことは、技術に比べたら、実にありふれていて、相対的にくだらないことだと思う。でも、そんなことで躓いて潰れていく事業が実に多くあるのだ。勿体ないこと、この上ない。

 

コンサルタントファンドが手助け出来たらよいけども・・・

そうした、ある種くだらないことは、我々コンサルタントのなりわいとする所であり、歯がゆさも人一倍である。事業承継をはじめとするマネジメントのきりかえはPEファンドも絡んでくるだろう。

ただ、悲しいかな我々もビジネスであり、小さすぎる事業体には手を出せないのだ。醤油蔵や酒蔵などは、年間の売上高が10億円を切るような所も少なくないだろう。そんな事業体は、当然月に数千万円ものフィーは払えないでしょう。ファンドにしても、サイズが小さすぎると投資対象になりえない。

零れ落ちていく技術と言うのはたくさんあるのだろう。

 

CVC(Corporate Venture Capital)に可能性はないか

EXITのキャピタルゲインのみを狙うPEファンドは厳しいかもしれないけど、Strategic Buyerも兼ねるCVCであれば*3、技術の取得を目的としたディールなら成立しえるかもしれない。

ハイテク業界は、技術進歩の速度が速いので自社のR&Dだけでは技術革新の波にのっていけないので、自社でファンド組成して、新しい技術を持つベンチャーなどを買いに行く技術のつまみ食いが、ごくありふれた手法の一つとして採用されている。

こうした取り組みが、たとえば食品や飲料などでも発生したら面白い。大手企業はレシピや製法、ブランドをつまみ食いしつつ、経営がイケてない小規模事業体に対しては、同業なので生産管理の方法論のトランスファーや、販路の共通化などを提供できるかもしれない*4

 

例えば、ビール業界で考えてみると

日本のビール業界は、空前のクラフトビールブームである。当然、大手各社も伝統的なピルスナーだけに留まらず、エールビールやIPAなどに幅広く手を出すようになってきているのだが、残念ながら、消費者が美味しいと感動するレベルに到達できていないように思う。

一方、日本各地で作られるクラフトビールのレベルはここ数年で格段に上がってきており、美味いと思わせるビールは数多く作られている。ただ、設備投資する体力はそこまでない、販路を開拓するだけの営業力がないなどの理由でスケール出来ていないブルワリーも多い。

こう見ていくと、大手飲料メーカーは、自前でピルスナー以外の製品開発することに投資をかけまくるより、各地のクラフトビールブルワリーを買収して、製品ラインを増やしていく方が手っ取り早いんじゃあないかとすら思える。レシピやブランド、技術そのものを目的とした買収。その一つの例が、ヤッホーとキリンの業務資本提携だと思う。

 

www.kirin.co.jp

  • 本業務提携契約は、両社の課題の解決を目的としています。ヤッホーブルーイング社は今後の飛躍的な成長を見据え、製造拡大に対応すべく、キリンビール社に一部製品の製造を委託します。また、キリンビール社は、イベントとインターネットを組み合わせたファンづくりなど、ヤッホーブルーイング社が展開している新たな手法によるお客様接点づくりやマーケティングについてのノウハウの提供を受けます。さらに、両社は若手を中心とした人材育成や原材料の共同調達などを通じて、お互いのビール事業の発展につなげます。

 

ヤッホーくらいの事業規模になるとキリン本体とはなから契約ということになろう。一方、ここほど軌道に乗っている/規模がある事業体だけでもないので、そうした場合は、CVCを通して少しずつ分散的に資本を入れて、確信を持てた段階で本体が買収という方法もあるだろうと思う。

ハイテク業界にばかり目が向かいがちなCVC、もしくはM&Aの手法だけども、これらの手法を効果的に使う余地が、ハイテク業界以外の大手企業にもまだまだありそうだし、それによって救われ、活きてくる技術も潜在的には多くありそうに思う。

*1:例えば、秋田の新政もその一つだろう。協会6号酵母が見つかった由緒ある酒蔵ではあるが、現社長が継ぐまでは経営はかなり厳しかったみたいだ。今では、日本でも指折りの人気の酒蔵になっている。

*2:私が想像しているのは、日本酒や醤油、味噌つくり、また伝統的な工芸品なども含まれる

*3:勿論、ファンドを噛ませないで本体が直接買収するのもあり

*4:ドライにいくなら技術だけ取得したあとは、事業としては解体してしまうという方法もあるけど