【与太話】続・新規事業立案PJの悲哀
気づけば、前回の更新から二週間以上が経過してしまっている。相変わらず、この恐ろしい新規事業立案PJに土日なく昼夜なく追われている。
必ず成功する確信をもった起業などありえない。それと同じように、新規事業立案も成功について断定できることは少ない。コストカットやBPR、再生計画策定、DDなどの堅いプロジェクトよりも遥かにパラメータの自由度と不確実性が高いのだ。
リサーチの負荷とは体積で考えることができる。面積と深さ。
自由度が高いというのはリサーチをする上で、非常に恐ろしいことだ。いきおい探索空間が広がると、面積分だけ負荷もn倍されるのだ。同様に、対象とする探索空間をどの程度まで掘るかもリサーチの負荷に影響する。
①筋の良い仮説を作ること(範囲の設定)、②適度な深さと粒度で調べること(深さの設定)、この2つの重要度が他のタイプのプロジェクトと比較して圧倒的に高く感じる。我々の健康状態に与える影響は甚大だ。
①筋の良い仮説を作ること(範囲の設定)
筋良く探索空間を狭めること、これは健やかに働き続けるために欠かさざるものである。言ってしまえば、最初から当たりの仮説を導き出せれば、ほぼ勝負は決まったようなものだ。与えられた仮説を検証することや、網羅性を担保することは、そんなに難しいことではない。
曲がりなりにもコンサルタントを数年やっているので、仮説思考が重要だ、まずは仮説をもって検証にあたれ、とは当然のように言われて働いてきた。しかし、本当の意味で重要度の高さを(身をもって)感じたのは、このPJが初だろう。先を見通しやすいPJタイプと見通しにくいPJタイプがある。後者について仮説思考の精度が低いと網羅的検証を強いられ、悲惨な顛末を迎えることになる。
②適度な深さと粒度で調べること(深さの設定)
良い仮説が立ち探索空間がいくばくか限定されたとしよう。その範囲でどれだけ掘るかは、悩ましい問題だ。「大きく右か左か判断できればよい」とはよく聞く言葉だ。言うは易し。
とにかく時間がない。いい意味でのいい加減さが求められる。上司とのコミュニケーションで、そんなにいい加減でいいのかと何度も感じたし、何度も感じている。私はどちらかというと、調査を詰めすぎるタイプだ。これまで、ぎちぎち数字を詰める仕事が多かったことも影響しているし、性格もそっちよりだ。この、いい意味でのいい加減さと折り合いをつけること、これについては、自分の中でまだ答えは見えていない。
心身の疲弊度合いに大きくインパクトすることであることは、分かっているけど。
無事にサバイブしたい。
【与太話】新規事業立案というゾッとするプロジェクト
あっという間に、更新が空いてしまった。またも、仕事が苛烈な状況になり、平日深夜労働は当然のこと、土日も一定程度働かざるを得ない状況に追い込まれている。そんな状況でBlogに時間を割くのは余程の酔狂だろう。ほんの少しだけ、休日に息抜きと更新する。
いま、頭を悩ませているのは成長戦略策定プロジェクトだ。成長戦略と言っても実はいろんなタイプがある。競合を打ち負かす方法を考えるタイプもあれば、ノンコア領域を明らかにして投資フォーカスすべき成長領域を炙り出すタイプもある。
今やっているのは、そのどちらでもなく、成長戦略と言いつつ、その実は、新規事業立案がお題のプロジェクトなのだ。既存事業は頭打ちなので、伸びそうな新しい事業の柱を考えようという何ともご都合主義なお題だ。
コンサルタントにとっては凄く恐ろしいテーマだと思う。
面白くて儲かるアイデアがPJ期間内に発想できなければ終わりだ。非常にリスキーである。加えて、クライアント社内では、散々っぱら検討しきってお手上げ状態になっている所から始まるのがザラであり、パッと思いつく筋の良い案なんてものは残されていない。だからこそ、高いカネをコンサルなんぞに払うわけだが。
緩くてもアイデアのオプションがクライアントの中にあって、その具体化やフィージビリティ・スタディなら、難易度はそんなに高くない。
ご多分に漏れず、本件も前者のパターンである。クライアントも全くもってどこに出て行ったらいいか分からない、むしろ、何か新しい発想を、新しい案を出してくれコンサルさんという感じなのだ。
PJが終了するまで筋の良い案を思いつかなかったらどうしようという焦燥感に追われ続ける。色んな仮説をひねり出しては、検証して棄却して、これを寝不足になりながら走り続ける。新規事業立案は初めて携わるタイプのプロジェクトだけど、精神的にかなりキツい。再びやるのは御免こうむりたいというのが、正直なところ。
ちなみに、新規事業立案というプロジェクトタイプは、難易度が高くコンサルティング・ファームの中でも、積極的に取るべきではないなどと、上記の本にも書かれていたりする・・・
【与太話】伝統的産業とCVCの話
以前の更新で、醤油かめびし屋を紹介した。
「むしろ麹製法」という伝統的な製法を強みとしていたが、経営は随分まずい状態だったようだ。そんなかめびし屋を若き現社長が継いでからターンアラウンドしたという美談である。
伝統産業において、イケてない経営者から、若くて商才もあるイケてる経営者に代替わりすることでターンアラウンドを果たした例は実は多くあるんじゃないかって思う*1。潜在的には、そうした経営者の切り替えによって息を吹き返す事業も伝統的産業*2の中には数多くあるように思う。何しろ、経営方法の近代化がダントツで遅れていそうな企業が実に多そうだから。いわゆる、職人の経験と勘というやつだ。
失われる技術がもったいない
消費者に求められない事業は、健全な競争の末に淘汰されることは、ある種しょうがないことだ。変に補助金を入れて延命する方が不自然だとも思う。
一方で、単に経営管理がまずくて潰れてしまう会社、そこに稀有な技術が埋まっていたら、それはかなり勿体ない。適切にマーケティングしていたら、製造工程に関して適切にPDCAを回してコストを削っていたら、適切に事業承継されていたら・・・こういうことは、技術に比べたら、実にありふれていて、相対的にくだらないことだと思う。でも、そんなことで躓いて潰れていく事業が実に多くあるのだ。勿体ないこと、この上ない。
コンサルタントやファンドが手助け出来たらよいけども・・・
そうした、ある種くだらないことは、我々コンサルタントのなりわいとする所であり、歯がゆさも人一倍である。事業承継をはじめとするマネジメントのきりかえはPEファンドも絡んでくるだろう。
ただ、悲しいかな我々もビジネスであり、小さすぎる事業体には手を出せないのだ。醤油蔵や酒蔵などは、年間の売上高が10億円を切るような所も少なくないだろう。そんな事業体は、当然月に数千万円ものフィーは払えないでしょう。ファンドにしても、サイズが小さすぎると投資対象になりえない。
零れ落ちていく技術と言うのはたくさんあるのだろう。
CVC(Corporate Venture Capital)に可能性はないか
EXITのキャピタルゲインのみを狙うPEファンドは厳しいかもしれないけど、Strategic Buyerも兼ねるCVCであれば*3、技術の取得を目的としたディールなら成立しえるかもしれない。
ハイテク業界は、技術進歩の速度が速いので自社のR&Dだけでは技術革新の波にのっていけないので、自社でファンドを組成して、新しい技術を持つベンチャーなどを買いに行く技術のつまみ食いが、ごくありふれた手法の一つとして採用されている。
こうした取り組みが、たとえば食品や飲料などでも発生したら面白い。大手企業はレシピや製法、ブランドをつまみ食いしつつ、経営がイケてない小規模事業体に対しては、同業なので生産管理の方法論のトランスファーや、販路の共通化などを提供できるかもしれない*4。
例えば、ビール業界で考えてみると
日本のビール業界は、空前のクラフトビールブームである。当然、大手各社も伝統的なピルスナーだけに留まらず、エールビールやIPAなどに幅広く手を出すようになってきているのだが、残念ながら、消費者が美味しいと感動するレベルに到達できていないように思う。
一方、日本各地で作られるクラフトビールのレベルはここ数年で格段に上がってきており、美味いと思わせるビールは数多く作られている。ただ、設備投資する体力はそこまでない、販路を開拓するだけの営業力がないなどの理由でスケール出来ていないブルワリーも多い。
こう見ていくと、大手飲料メーカーは、自前でピルスナー以外の製品開発することに投資をかけまくるより、各地のクラフトビールブルワリーを買収して、製品ラインを増やしていく方が手っ取り早いんじゃあないかとすら思える。レシピやブランド、技術そのものを目的とした買収。その一つの例が、ヤッホーとキリンの業務資本提携だと思う。
ヤッホーくらいの事業規模になるとキリン本体とはなから契約ということになろう。一方、ここほど軌道に乗っている/規模がある事業体だけでもないので、そうした場合は、CVCを通して少しずつ分散的に資本を入れて、確信を持てた段階で本体が買収という方法もあるだろうと思う。
ハイテク業界にばかり目が向かいがちなCVC、もしくはM&Aの手法だけども、これらの手法を効果的に使う余地が、ハイテク業界以外の大手企業にもまだまだありそうだし、それによって救われ、活きてくる技術も潜在的には多くありそうに思う。
2016/1振り返り
不幸が訪れた。1000字ほど書き連ねていたブログの下書きが、このクソッタレなPCが固まることで吹き飛んでしまった。悲しいことである。復旧はどうやら出来ない。
心におった深い深い傷が癒えないうちは、とてもじゃあないが、再び同じ記事を復元するなんて言う苦痛に満ち満ちた作業には、どうやら着手できそうにない。
今日は1月最終日。気分展開に1月を振り返ろう。ライトだからいい。ちょうど趣味の目標と言う記事を年始に書いたからね。
日本酒の知識を増やす
こっちは、サボってしまった。年明けてから、あまり日本酒を飲めてないってところもある。来月は、2~3冊程度、日本酒関連の本を乱読したい所。日本酒をどのように表現すべきか、そもそもどのような香りの分類があるか、酵母はどのような分類があって、それぞれどんな特徴があるのか。ここらへんのお話を掴んでいきたいところ。
ウイスキーを色々飲む
こっちも、サボってしまった。月1オーセンティックバーを目標に課すか。なんにせよ、定量目標は重要だなと感じる。ウイスキー本は、1冊Kindleで読みかけがあるから、これを消化して何本か、blogを更新しよう。滑り込みで今日Barにでも行くかな・・・
一眼レフで撮影
申し訳程度に鎌倉で撮影をしたので、こちらは今月は何とか達成。来月は、撮影関連の本を1~2冊ザッと読んでみて、それに従った撮影を1回実行しよう。
Blogを週1更新する
これも出来たんじゃあないか。こうしてみると、定量目標立てた2つは達成して、定量目標を立てていない2つが未達成と見事に分かれている。やはり、目標設定はSMARTである。クライアントにもそう言っているのにね。
総じて
詰め込むものと言ったらビジネス一辺倒な数年間だったが、こうして趣味に関するインプットを意識的に増やすことは、思いのほか楽しいもんだと感じている。Blogも思いのほか楽しんで更新している自分がいる。
ちょうど先日、三谷さんの戦略読書を読んだのだが、やはり興味の幅を広げなさいということを繰り返し主張されていた。読書のポートフォリオがビジネスばかりに偏ってしまって、周りのビジネスマンと同じようなことしか言えないつまらない自分になったことに気が付いてゾッとしたというエピソードが載せられている。私も読む本といったら経営、ファイナンス、経済学に偏っていたのでギクリとしたわけだ。
2月からは、全く新しい上司と全く新しいテーマでPJが始まり環境もまた読めないが、仕事にばかり追われないようにコントロールしていきたいところ。
【英国一家、ますます日本を食べる】伝統的産業における若き担い手の話:醤油かめびし屋
なんどか読書録で『英国一家、日本を食べる』を取り上げていたと思う。実は、日本語版ではもう一冊『英国一家、ますます日本を食べる』という本が出版されている。英語版では一冊の本だったんだけど、紙面の関係上、いくつかのエピソードが削られて『英国一家、日本を食べる』が出版されたのだ。穿った見方かもしれないけど、一冊目が結構売れたもんで、一冊目には収録されていなかった残されたエピソードについても『英国一家、ますます日本を食べる』として出版されたのだろう。
醤油屋の話が面白い
この本の中で世界一の醤油と言われて紹介されている、かめびし屋の話が面白い。
若き跡取りが、伝統を覆し、新しいことに挑戦し、窮乏化していた事業を立て直す話は、秋田のいくつかの酒蔵(新政や山本)の話と相通ずる所がある。
四国へ来たのは、世界一の醤油を味わうためだ。シングルエステートの、しかもドプレスのエキストラバージンオイルや、モデナ産の50年物のバルサミコ酢に匹敵する醤油で、かつての侍の一族が伝統的な製法を守りながら作っている、本物のグルメ志向の逸品だ。
かめびし屋、何が普通の醤油、例えばキッコーマンの醤油と違うのだろうと思ったが、製法が独特の様だ。
かめびし屋は日本で唯一、「むしろ麹法」という伝統製法を守って醤油を製造している会社だ。「むしろ麹法」では、竹を編んだ簾の上に敷いたむしろに大豆を広げて発酵させ、もろみを作る。できたもろみは、蔵の樽で少なくとも2年半かけて熟成させる。
この「むしろ麹法」がどうやらこのブランドの特徴であり、売りの様だが、この本の中では、そこまで触れられていない。これについては、今度、検索をかけて追加で書いてみたい。
若き当主の発想力
面白かったのは、やはり現当主の話だろうか。現当主の岡田佳苗さんは、東京の旅行会社で働いたのち、家業を継ぐために戻って来たそうだ。こうした伝統産業ではよくあることだが、日本初の女性の醤油蔵経営者ならしい。
彼女が事業を継いだとき、 破産の瀬戸際と言われるほど経営状態はよくなかったみたいだ。「むしろ麹法」は古くからあった製法だろうから、単にこれがあっただけでは競争力がなかったのかもしれない。単に経営管理がまずかった可能性もある。
窮乏化の原因はさだかではないが、伝統的に受け継がれてきた「むしろ麹法」は活かしつつ、新しい製品をたくさん生み出して経営を建て直したのは事実のようだ。
佳苗さんは、家業の文化的、産業的重要性を認識し、破産の瀬戸際にあった会社を救う決意をした。そして、みごとな経営手腕を発揮し、伝統製法を尊重したうえで、フリーズドライの「ソイソルト」や長期醸造醤油 - 今のところは27年もの - など、すばらしい新商品を開発し、会社を立て直したのだ。
新商品の投入を(国内or海外)×(プロ向けor家庭向け)の切り分けの中で、多くのプレイヤーがひしめき合っている【国内×(プロ向けor家庭向け)】でもなかれば、キッコーマンなどのパワープレーヤーが既にシェアを取りに行っている【海外×家庭向け】でもないセグメント、つまり【海外×プロ向け】に目を付けたのは面白い*1。
「フランス料理やイタリア料理のシェフ向けに、ソイソルトを作り始めました。醤油そのものでは色がつきますから、フレンチやイタリアンでは使ってもらえません。今では、多くのイタリア料理店でソイソルトを使って頂けるようになりました。うま味がたくさん詰まっています。天然のMSGだと思っていただければいいです。
パスカル・バルボ(パリの三ツ星レストラン「明日アストランス」のオーナーシェフ)もアラン・デュカス(異なる国で三ツ星を獲得したフランス生まれ、モナコ国籍のシェフ)も、ソイソルトを使う殊に大変興味をお持ちです。」
加えて、既にある『醤油』という製品では、『色がついているから使ってもらえない』という制約を理解した上で、直接醤油では戦わず、持っている強みをソイソルトの開発に振り分けて攻略している点が、示唆深い。成熟マーケットのただ中にあり、既存の経営資源を元に、どうにか新たな収益源を得なくてはいけない企業にとっては、特にね。
こうして考えると伝統的な産業の中には、まだまだ、経営を洗練することで素晴らしい製品を作り出し得る素地が残されているのではないかと感じる。